ふと思い立って京都に行きたくなる——というのは、某鉄道会社の広告コピーですが、なるほど確かに春という季節は、色んな場所を訪ねたくなるものですね。
こんにちは、ハーシー鴨乃です。
『猫の居る風景』第10回の舞台は、だからというわけでもありませんが、京都です。
とはいえ、メジャーな観光地はつい避けてしまうのが、筆者の悪い癖。
この旅も、“That’s京都”的な、いかにもなスポットはあえてはずし、やってきましたのは京都市南部の宇治市です。
宇治といえば、日本茶の高級ブランド・宇治茶を思い出される方も多いかもしれません。世界遺産に登録されている平等院鳳凰堂も宇治市にありますし、市のキャッチコピー「宇治茶と源氏物語のまち」にもあるとおり、源氏物語でも知られている街です。
さてこちら、いかにも怠惰なおとっつぁん猫と仔猫のコンビネーションが何とも絶妙な写真は、宇治公園での一コマ。背後に見える赤い橋は、宇治川の河畔と中州を結ぶ朝霧橋です。
この宇治川では、夏になると鵜飼いが催され、また格別の風情を醸します。
宇治の鵜飼いは、全国でも珍しい女性鵜匠が活躍していることでも知られており、実は筆者も、日本各地を旅して回っていた頃、某誌の取材がてらお邪魔させていただきました。
それにしても不思議なのは、古代から釣り道具はあったにもかかわらず、どうしてわざわざ鵜を使って魚を獲る漁法が発達したのでしょうね。
実はこれには、ちゃんと理由があります。
通常の釣りだと、針が喉に刺さるため魚は苦しんでしまいますが、鵜は、飲み込んだ瞬間に魚を気絶させることができるのだそうです。魚が苦しまない分、脂肪が抜けずに美味しく、また傷みが少ないので長持ちするのだとか。だからこそ桃山時代以降、鵜飼いで獲れた魚は献上品として珍重され、諸大名にとっても、自国の中に鵜飼いの漁場があることは、一種のステイタスシンボルだったそうです。
夏。宇治川の向こうに陽が落ちる頃、鵜飼い舟の穂先に灯がともります。
平安時代に記された「蜻蛉日記」には、宮廷貴族がかがり火を焚いて鵜飼いを楽しむ様子が描かれています。
宇治川の水面(みなも)を彩るこの幽玄の炎もまた、鵜飼いとともに1000年以上もの間、脈々と受け継がれてきたのですね。